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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

庭もそうだが、長女の変わりかたも、はげしかった。麻布の家の門を入るなり、千々子さまは、ひとがちがったようになってしまった。浮世のことは、万事、嫌といった、ひとの気持を滅入らせるような、じめじめした表情はどこかへ飛んでしまい、思いだし笑いをしたり、口のなかでブツブツいったり、ひとりで浮き浮きしていた。プールとテニス・コートの全景をながめやり、まわりの風致に調和するような音楽的な声で、

「これが、お化けでも出そうだった、あの気味の悪い邸なんでしょうか……むかしのおもかげなんか、どこにもありませんわねえ」

と、うっとりしたみたいな声で、石田氏にいった。石田氏は、面白くもないような顔で、舌打ちをしながら、

「おもかげどころか! あそこをみろ。バカなことをするやつも、あるもんだ」

と西の地境いのほうを指した。

庭端の地境いになるところに、大きな松林があって、真西からさしかける陽を防いでいたものだが、樹齢五百年という有名な黒松の樹牆が、一本のこらず、おなじ高さに頭をちょん切られたうえ、幾何模様のように枝を間引かれてしまったので、地境い一帯が、むやみに陽あたりがよくなっている。