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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
そのうちに、ぽっかり眼をあき、枕元に背の高いひとが二人も坐っているのを見ると、巣鴨の監房の中だと勘ちがいしたらしく、
「寝たままで、失礼いたします。お取り調べは、今日でしょうか」
と頓狂な挨拶をし、見舞いにきていた人々を失笑させた。担当の医者は、
「ここは巣鴨ではないから、ご心配なく……あなたは脳溢血で倒れたので、いま、病院にいるのです」
と説明し、血斑のありかを地図のように書いてみせた。
祖父は一と月ほどしてから麻布の家へ帰ったが、家屋収用を戦犯逮捕と勘ちがいして、恐怖のあまり卒倒し、アメリカの注射で助かったいきさつは、すぐ、みなに知れた。
「ここは巣鴨ですか」には、笑わぬものはなく、石田は見かけ倒しの臆病ものだということになって、それ以来、訪ねてくるものもなくなった。
祖父は長い間の習慣で、毎日、客間に坐って、誰か来るのを待っているので、それとなく家扶が注意したが、長年、お追従とおべんちゃらに馴らされてマイルドになった頭には、なんのことやら、よくのみこめないふうだった。
洋館の客間の暖炉棚に載っているスイス製の千日捲きの置時計は、むかしは祖父の自慢のものだったが、よほど前から動かなくなり、丸い玻璃鐘の中で赤く錆びついていた。