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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

越してきた日の朝、トラックが、わずかばかりのガラクタを車寄せの芝生のうえに投げだして行ってしまうと、一家五人は、家具ひとつない、三百坪のがらん洞の大邸宅の片隅に集まり、顔を見あわしたまま陰気にだまりこんでいた。居住というにしては、あまりにもとりとめがなく、とりあえず、どこへ身を置けばいいのか、それさえ見当のつかない、たよりない気持で、まごまごしていた。長男の五十雄君は、はじめて見るわが家の改変ぶりに滑稽を感じ、面白そうにあちらこちらとながめていたが、われわれ四人のほうは、ワニ氏にまつわる、嫌な思い出があるので、この家にたいする印象は、たいして愉快なものではなかった。

石田氏は、不得要領な顔で、うっそりと口髭を撫でていたが、

「さて」と曖昧なことをいいながら、自分の布団を担いで、南側の洋館のある一郭のほうへ出て行った。それで思いついて、めいめいが自分の部屋の設営にかかった。

去年のままに葎がす枯れている、家裏の日当りの悪いところに、脚の折れた机や、バネの飛びだした革張りの椅子が雨ざらしになって、いくつも投げだしてある。

千々子さまは、いつにない生気にみちたようすになって、使えそうなやつをそのなかからえらびだすと、手伝ってくれともいわずに、一つずつ髪ふり乱して運びかえし、西端の、むかしの上ノ厠におのがサロン