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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
「頭のことなんか、どうだっていいから、早く行って、きいて来い。これじゃ、風邪をひく」
「かしこまりました……それはそうと、賢夫人は、どこだ? 北の端の附書院か……こう広くちゃ、ベル・ボーイでも雇わないと、急な用事は足りません」
賢夫人をたずねて、最後に、『ケチン』といっているアメリカの台所へ行くと、賢夫人と千々子さまが、どこから仕入れてきたのか、赤錆の出た中古の電気オーヴンを、タイルの調理台の上にすえ、動力線が切られているので、壁付灯のソケットから長々とコードをひき、気取ったようすで、お台所遊びをしていた。
「おや、ご馳走ができますね」
百々子が、お愛想のようなことをいうと、賢夫人なるひとが、じろりとこちらへ振り返った。
「ちょこちょこするひとは、ここには用はないのよ」
「そうですか。お邪魔でしょう、退ります」
「今日は素直ね……せっかく来たんだから、じゃ、五十雄さんに、夕食を持っていらっしゃい」
そういって、食器の載ったアルミの角盆をおしてよこした。
五十雄君は、いぜん提灯部屋だったサン・ルームのようなところへ、この七年、医療の友だった整形用の板張りのベッドを持ちこみ、聖画の中の聖人のような顔で、ひっそりと閑居している。