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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
ともかく、手当の残りをいただきます……一、二、三、四と、一月から四月まで、毎月、二万三千円ずついただきましたが、八割増しの計算だと、あと五十二三万はお持ちのはずですね」
「そんな金はない」
「これから先、どうしたって、その金でやっていくしかないんですから、そんなことをおっしゃらないで」
「後にも先にも、無いものはない」
すごい間……十秒ほどのあいだは、床に落ちる針の音も聞えそうだった。賢夫人はつくづくと石田氏の顔をながめてから、子供にでもいうように、
「どうなすったの?」
と、やさしすぎるくらいの調子でたずねた。
石田氏は、復讐をなしとげた勇士の意気昂然たる態で、堂々と名乗りをあげた。
「競輪で、みな耗ってしまった」
「冗談をおっしゃって……まさか、そんな……」
賢夫人はムキになって、思わず取乱しかけると、石田氏は、
「嘘だと思うなら、これを見ろ」
と、あちこちのポケットから、ロスになった車券を掴みだし、これでもかというように、天井や壁にむかって投げつけるので、しばらくのあいだ、上段ノ間のサロンは、車券の花吹雪といった風情になった。
このおさまりは、生優しいことではすみそうもない。