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あるおんな
或る女
有島 武郎
1(前編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,981 字 · 295 页
と田川夫人は実際恐れたらしく、葉子を顧みながら少し色をかえた。事務長は事もなげに、
「暴けますんだずいぶん」
と今度は葉子のほうをまともに見やってほほえみながら、おりから部屋を出て来た興録という船医を三人に引き合わせた。
田川夫妻を見送ってから葉子は自分の部屋にはいった。さらぬだにどこかじめじめするような船室には、きょうの雨のために蒸すような空気がこもっていて、汽船特有な西洋臭いにおいがことに強く鼻についた。帯の下になった葉子の胸から背にかけたあたりは汗がじんわりにじみ出たらしく、むしむしするような不愉快を感ずるので、狭苦しい寝台を取りつけたり、洗面台を据えたりしてあるその間に、窮屈に積み重ねられた小荷物を見回しながら、帯を解き始めた。化粧鏡の付いた箪笥の上には、果物のかごが一つと花束が二つ載せてあった。葉子は襟前をくつろげながら、だれからよこしたものかとその花束の一つを取り上げると、そのそばから厚い紙切れのようなものが出て来た。手に取って見ると、それは手札形の写真だった。まだ女学校に通っているらしい、髪を束髪にした娘の半身像で、その裏には「興録さま。