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あるおんな
或る女
有島 武郎
1(前編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,981 字 · 295 页
木村といふ首桎を受けないでは生活の保障が絶え果てなければならないのだから。葉子の懐中には百五十ドルの米貨があるばかりだった。定子の養育費だけでも、米国に足をおろすや否や、すぐに木村にたよらなければならないのは目の前にわかっていた。後詰めとなってくれる親類の一人もないのはもちろんの事、ややともすれば親切ごかしに無いものまでせびり取ろうとする手合いが多いのだ。たまたま葉子の姉妹の内実を知って気の毒だと思っても、葉子ではというように手出しを控えるものばかりだった。木村――葉子には義理にも愛も恋も起こり得ない木村ばかりが、葉子に対するただ一人の戦士なのだ。あわれな木村は葉子の蠱惑に陥ったばかりで、早月家の人々から否応なしにこの重い荷を背負わされてしまっているのだ。
どうしてやろう。
葉子は思い余ったその場のがれから、箪笥の上に興録から受け取ったまま投げ捨てて置いた古藤の手紙を取り上げて、白い西洋封筒の一端を美しい指の爪で丹念に細く破り取って、手筋は立派ながらまだどこかたどたどしい手跡でペンで走り書きした文句を読み下して見た。
「あなたはおさんどんになるという事を想像してみる事ができますか。