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あるおんな

或る女

有島 武郎

1(前編)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,981 字 · 295 页

青空文庫

「早月さんお願いだ。ちょっとあけてください」

葉子は手早く小机の上の紙を屑かごになげすてて、ファウンテン・ペンを物陰にほうりこんだ。そしてせかせかとあたりを見回したが、あわてながら眼窓のカーテンをしめきった。そしてまた立ちすくんだ、自分の心の恐ろしさにまどいながら。

外部では握り拳で続けさまに戸をたたいている。葉子はそわそわと裾前をかき合わせて、肩越しに鏡を見やりながら涙をふいて眉をなでつけた。

「早月さん※(感嘆符二つ、1-8-75)」

葉子はややしばしとつおいつ躊躇していたが、とうとう決心して、何かあわてくさって、鍵をがちがちやりながら戸をあけた。

事務長はひどく酔ってはいって来た。どんなに飲んでも顔色もかえないほどの強酒な倉地が、こんなに酔うのは珍しい事だった。締めきった戸に仁王立ちによりかかって、冷然とした様子で離れて立つ葉子をまじまじと見すえながら、

「葉子さん、葉子さんが悪ければ早月さんだ。早月さん……僕のする事はするだけの覚悟があってするんですよ。僕はね、横浜以来あなたに惚れていたんだ。それがわからないあなたじゃないでしょう。暴力? 暴力がなんだ。