轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

あるおんな

或る女

有島 武郎

1(前編)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,981 字 · 295 页

青空文庫

それからというもの、岡はまるで幽霊のようだった。船の中にいる事だけは確かだが、葉子がどうかしてその姿を見つけたと思うと、次の瞬間にはもう見えなくなっていた。そのくせ葉子は思わぬ時に、岡がどこかで自分を見守っているのを確かに感ずる事がたびたびだった。葉子はその岡をあわれむ事すらもう忘れていた。

結句船の中の人たちから度外視されるのを気安い事とまでは思わないでも、葉子はかかる結果にはいっこう無頓着だった。もう船はきょうシヤトルに着くのだ。田川夫人やそのほかの船客たちのいわゆる「監視」の下に苦々しい思いをするのもきょう限りだ。そう葉子は平気で考えていた。

しかし船がシヤトルに着くという事は、葉子にほかの不安を持ちきたさずにはおかなかった。シカゴに行って半年か一年木村と連れ添うほかはあるまいとも思った。しかし木部の時でも二か月とは同棲していなかったとも思った。倉地と離れては一日でもいられそうにはなかった。しかしこんな事を考えるには船がシヤトルに着いてからでも三日や四日の余裕はある。倉地はその事は第一に考えてくれているに違いない。葉子は今の平和をしいてこんな問題でかき乱す事を欲しなかったばかりでなくとてもできなかった。