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あるおんな
或る女
有島 武郎
1(前編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,981 字 · 295 页
その柿の皮があかあかと紙くずとごったになって敷き石の上に散っていた。葉子は叔父にちょっと挨拶をして草履をさがしながら、
「愛さんちょっとここにおいで。玄関が御覧、あんなによごれているからね、きれいに掃除しておいてちょうだいよ。――今夜はお客様もあるんだのに……」
と駆けて来た愛子にわざとつんけんいうと、叔父は神経の遠くのほうであてこすられたのを感じたふうで、
「おゝ、それはわしがしたんじゃで、わしが掃除しとく。構うてくださるな、おいお俊――お俊というに、何しとるぞい」
とのろまらしく呼び立てた。帯しろ裸の叔母がそこにやって来て、またくだらぬ口論をするのだと思うと、泥の中でいがみ合う豚かなんぞを思い出して、葉子は踵の塵を払わんばかりにそこそこ家を出た。細い釘店の往来は場所柄だけに門並みきれいに掃除されて、打ち水をした上を、気のきいた風体の男女が忙しそうに往き来していた。葉子は抜け毛の丸めたのや、巻煙草の袋のちぎれたのが散らばって箒の目一つない自分の家の前を目をつぶって駆けぬけたいほどの思いをして、ついそばの日本銀行にはいってありったけの預金を引き出した。