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あるむらのいつつのはなし
或る部落の五つの話
佐左木 俊郎
「文学時代」1929(昭和4)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,917 字 · 12 页
一 禿頭の消防小頭
或る秋の日曜日だった。小学校の運動場に消防演習があった。演習というよりは教練だった。警察署長が三つの消防組を統べて各々の組長が号令をするのだった。号令につれて消防手の竿は右向き左向き縦隊横隊を繰り返すのだった。
その教練の始まる前だった。禿頭の老小頭が、見物人達の前へ来て何か得意らしい調子で話をしていた。
「どうも、小頭なんて、何十人という部下の先頭に立たねばなんなくて、どうも気忙しくて……」
彼はそんなことを言っているのだった。彼は何十年となく何かの名誉職に就くことを望んでいたのだったが、今度の消防組の組織のとき多額の寄附金によって初めて小頭になることが出来たのだった。彼は最早それだけで得意でなければならなかった。それに今日は最初の連合教練なのだった。
併し彼はその小頭の半纒を麗々しく着ていることが何かしら気恥ずかしいというように、田圃へ出る時と同じように首に手拭いを結んでいた。その端が襟に染め抜いた小頭という白文字の小の字を掩うて、頭という字だけを見せていた。
そこへ一人、髯面の男が、見物人を掻き分けて出て行った。