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あるむらのいつつのはなし
或る部落の五つの話
佐左木 俊郎
「文学時代」1929(昭和4)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,917 字 · 12 页
横列縦隊は右に向きをかえた。が、そのとき、禿頭の清次郎だけは左を向いて、仁王様のように四角張った。
「なるほど。」
平三はそう言って、また口尻を歪めた。
その瞬間に清次郎は向きを右に向きかえた。あわてていたが悠然した態度で。――併し最早そのときには前後左右から若い消防手の、声を殺そうとする笑いが彼を取り捲いていた。清次郎は真っ赤な顔で苦虫を噛み潰していた。
教練の整列が崩れるのを待っていて、平三は清次郎を掴まえた。
「清次郎氏! 小頭って役目は、右向けいってときに、みんなが右さ向く間に、左さ向いて、肩を将棋の駒のようにしながら、火事場の方角でも確かめるのかね? そして、左向けいってときには、右さ向いて……」
「うむ。糞でも喰らえ。覚えていやがれ。」
清次郎は自棄に唾を吐き散らした。そして見物人達の笑い声を背後に浴びながら幹部休憩所の方へやって行った。
二 猟犬ジョンの奇蹟
猟犬のジョンは九日目の朝に戻って来た。
「お父つあん! ジョンが帰って来たよ。」
「うむ? ジョンが? どれ?」
炉端で新聞を読んでいた平三は、裸足で戸外へ飛び出して行った。――小学校の庭で消防演習があってからまもなく、どこへ行っていたのかジョンは、今朝まで姿を見せなかった。