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あるむらのいつつのはなし
或る部落の五つの話
佐左木 俊郎
「文学時代」1929(昭和4)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,917 字 · 12 页
彼はジョンが自分の前に来ると、そこへ煮干の小肴を投げ出しておいて、今来た路を逆戻りした。そして、反対の方からまたジョンを新しい名で呼んだ。
「禿! 禿! 禿! 禿! 禿! 禿!」
平三は、ジョンが来ると煮干を投げて置いては、また引き返した。彼は何度も繰り返した。平三とジョンは、清次郎の家の前を幾度も往復した。
「平三氏! 大概にしねえか?」
禿頭の清次郎が真っ赤になって出て来た。
「俺とこの犬め、すっかり頭が禿げてね。ジョンより呼びいいから『禿げ』と、名を改えんべと思って…… 禿! 禿! 禿!」
「うむ。なんぼでも言うさ。貴様も、そうなるように、竹駒様を祈ってやるから。それだって、俺が祈ったからそんなになったんだ。」
「竹駒? 白狐に、大切な人間の頭を、赤禿げにされていられるかい! 禿! 禿! 禿!」
平三はしきりにジョンを新しい名で呼び続けるのだった。
それから二三日して再びジョンの姿が見えなくなった。
六日目にジョンの死体が発見された。部落の中を流れる用水の下流に浮いていた。最早ジョンの死体は死因を確かめることが出来ぬほどに半ば腐爛していた。別に打撲傷というようなものもなかった。