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とびら
扉
小川 未明
「早稲田文學」1910(明治43)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,143 字 · 17 页
Kは、じっと眸を凝して闇の中を覗き込んでいた。折々バサバサと鳴って硝子窓に当るものがあった。風に散る木の葉の音より大きかった。乾き切った地面から舞い揚る黄色な埃でなかった。なんだか生きているものが当る音だ。
鳥でないか?
鳥にしては白い鳥でない。ランプの光りは弱いながら、窓の口までは泳ぎ着いている。白い色なら見える筈だ。雪のように白くなくとも、古綿のように垢染みた色でも見える筈だ。
黒い鳥であろう? 黒い鳥に相違ない!
なんで黒い鳥がこの窓に来て当るのだろう。また、バサバサと鳴った。たしかに翼の音に相違ない。しかしその当る力は衰えていた。大空を翅ける鳥の翼の力にしては弱っていた。
病気の鳥ででもあるか知らん?
翼を傷めた鳥ででもあるか知らん?
それともこの闇に道を失った鳥であろう。帰るべき道を迷っている鳥であろう。ただこの広い野中に、ただ一つ真夜中に点っているこの室の燈火を認めて、さながら大海の中に漂う船が命の光りを見出したように翅けて来たのだ。そして来る間に翼が弱ったのだ。
ガタ、ガタと嵐が窓に当った。次第に嵐は激しくなった。黒い鳥は突き当るのに間が置いた。