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とびら

扉

小川 未明

「早稲田文學」1910(明治43)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,143 字 · 17 页

青空文庫

五

「B――だ。」

また、四辺はしんとして静まり返った。

「塾長、早く言えばいいに……。」と一人がいう。

「もう暗くなるんだ。」

「何を考えているんだい。」

「…………。」

Kは、沈痛な言葉でいった。

「私は、幾日か夜も眠らず、食を廃して研究して見ました。」

「世の中に不思議な事実はない。今まで私が不思議と思っていたことは潜在意識に他ならなかったのです……。」

「この分で研究が進んで行ったなら、早晩霊魂も科学の力で説明出来るだろうと思います。」

Kは、更に沈痛な顔色に愁いを浮べていった。

「B君は犠牲になりました。みずから進んで被験者となってくれました。潜在意識の研究はもとより、今度の実験で人間というものが日頃のひととなりに反し――全く矛盾している――秘密を持っていることが分ったのです。」

「Bに、どんな秘密があったろう……。」

「明日その研究の結果を報告いたします。」

「もう暗くなった。」

「Bは、死んだのかい。」と誰やらがいった。

五

夜の色が黒い鳥の翼のように、だんだん低く灰色の家の上に垂れかかった。闇の裡に風の声が鋭く叫んで星が隠れた。何物をも硝子を通して認めることが出来なかった。