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とびら

扉

小川 未明

「早稲田文學」1910(明治43)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,143 字 · 17 页

青空文庫

なるたけこの際自分の顔を見せない方がいいと考えた。

Bは一人、建物の外側に出て、石の上に腰を下ろした。空に汚い雲が往来していた。まだ冬が去るには間があった。凍えた木立の梢が裸姿で痛々しい。

青腫れのした顔の中に、怖気た小さな眼は潜んでいた。頭の中は掻き廻されるように痛んで、眼がだんだん霞んで来た。遠くに森があった。森のかなたにも家があった。人が住んでいる。……

ずっと遠くへ行けば変った国がある。そしてこんな陰気な思いをせずに住むことが出来るような気がした。Bはそこへは自分の力で行くことが出来ぬと思った。

「やはり、この建物にいるのだ。」といって石から起ち上った。

彼は怨めしそうに建物を見上げた。泣かんばかりに口の中で神に祈った。……!

Bは、三たびKの室の前に来た。また、障子の孔から覗いた。Kの姿が見えなかった。Bは狂せんばかりに胸が騒いだ。ああ、この時だ。何を書いたか見なければならぬ。後方から熱い息で、囁いたものがある。

「早く、早く、すぐKが入って来るぞ。」

その囁いた者は、Bの眼にはっきりとその姿は見られなかった。ただ自分よりもずっと体が大きくて、背が高くて、その色が茫漠としていた。