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ピッチャーさつじんじけん

投手殺人事件

坂口 安吾

「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页

青空文庫

スイッチを見つけたから電燈をつけて、こいつはイケネエと思ったね。すぐ手を洗って、電燈を消して逃げだしたんだ。三分か五分ぐらいしか居やしない。ちゃんと、もう、死んでたんだ。靴跡や手型はあるかも知れんが、拭いてるヒマもねえや。運ちゃんを探して、きいてみな。自動車を待たせといて、人殺しができるかてんだ。しかし、なんしろ、人はオレを疑うだろうと思うと、慌てるね。三百万円はフイになるし、横浜へも帰られない。ママヨと、パンパン宿へ行ったのさ」

赤い顔だ。酒をのんでるらしい。衣服の胸や袖口、膝や、ところどころ血がついてる。かなり拭きとったらしいが、よく見ると、分る。

手型と靴をしらべてみると、たしかに岩矢のものにマチガイない。

「お前は葉子にミレンがなかったのか」

と、居古井警部が鋭くきいた。

「いくらか、あるさ。しかし、三百万で売れるなら、どんなに惚れた女でも、手放すね」彼は冷然と笑った。

「よし、まア、待ってろ。運転手にきけばわかることだ。どんな運転手だ」

「そっちで勝手に探すがいいや」

「ウン、そうするよ。あッちで、休んでいてくれ」

岩矢天狗を退らせて、居古井警部は背延びした。