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ピッチャーさつじんじけん

投手殺人事件

坂口 安吾

「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页

青空文庫

同じ品をいくつも買ってる。ついでに二ツのトランクの中を見せてもらったが、変装用具と洗面具のほかは何もない。

「いつごろ散歩からお帰りでしたか」

「そうですなア、四条から三条、それから祇園の方までブラブラと、あれこれ見て廻って、又、新京極へ戻って、ちょッと寝酒をのんで、宿へ帰ったのは十二時半ごろでしたかなア。一時ちかかったかも知れません」

「どうも、御苦労さまでした。もう、ちょッと、みんなの取調べの目鼻がつくまで、待っていて下さい」

「イヤ、どうも、せっかく手に入れた選手を殺して、ウンザリしましたよ。せっかくの苦労も、水の泡です」煙山は苦笑して、去った。

居古井警部は葉子をよんで、煙山の出発の時刻を知っていたか訊いたが、朝出発とだけ知っていたが、時刻は知らなかったとのことで、又、それを誰に話しもしなかった、という返事であった。

そこへ刑事が引ッ立ててきたのは、岩矢天狗であった。三十七八の小柄だが、腕ッ節の強そうな男だ。彼はきかれもしないのに、いきなり、喚いた。

「冗談じゃ、ないよ。オレが真ッ暗の部屋へはいって行ったら、屍体につまずいて手をついたんだ。ライターをつけて、室内を見た。