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そうわ

挿話

徳田 秋声

「中央公論」1925(大正14)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,544 字 · 53 页

青空文庫

支度をしに二階へあがると、お絹もついてきて、荷造りをしてくれた。

「こんなものはバスケットがいいんでしょう」お絹はそこにあった空気枕や膝掛けや、そうした手廻りのものを、手ばしこく纏めていた。

下へおりると、おひろが知らしたとみえて、森さんももうやってきて、別製の蓮羊羹なぞをおびただしく届けさせてきた。

「先生、これはちょいといいもんです。おひろ一本切ってきてごらん」

道太は二三日前に、芝居のお礼か何か知らんが、辰之助といっしょに、ある閑寂な貸席で、宗匠の御馳走になっていた。宗匠はそこで涼の会や虫の会を開いて町の茶人だちと、趣向を競った話や、京都で多勢の数寄者の中で手前を見せた時のことなどを、座興的に話して、世間のお茶人たちと、やや毛色を異にしていることを、道太に頷かせた。

「こんな物でもお気に入ったら」おひろはそう言って、例の智慧くらべを出してくれた。

荷物を森宗匠に頼んで、道太が辰之助とそこを出たのは、もう六時少し過ぎたころであった。

「わたしは皆さんがおいでると悪いさかえ、お見送りはしません」お絹は幾折かの菓子を風呂敷に包みながら断わった。

「何だかまだ忘れものがあるような気がしてならない」