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そうわ
挿話
徳田 秋声
「中央公論」1925(大正14)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,544 字 · 53 页
すると間もなく、お絹がにわかにそこへ姿を現わした。皆んなは目をそばめた。お絹はちょっと躊躇していたが、やがて窓ぎわへ寄ってきて、
「はいお弁当」と、立つとき言っていた弁当を、手を延ばして道太に渡した。
「それからこれシャボンと歯磨」
「それあ、どうも……」道太はそれを受け取って、ちょっとお辞儀をした。
汽車が出てしまった。いくら心配しても、それだけの時間は、飛躍を許さないので、道太は朝まではどうかして工合よく眠ろうと思って、寝る用意にかかったが、まだ宵の口なので、ボーイは容易に仕度をしてくれそうになかった。
道太は少しずつ落ち著いてくると同時に、気持がくすぐったくなってきた。二十日ばかりのお絹との接触点を振り返えると、今でもやっぱり彼女は謎であった。