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にぎったて

握った手

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第八巻第六号」1954(昭和29)年4月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,293 字 · 23 页

青空文庫

むしろそれは成行きにまかせようと考えていた。しかし、樹蔭のベンチのところへ来てみると、そこに腰かけているのは見知らぬ男女の学生であった。そして、植込みの向うの芝生には誰の姿もなかった。

彼女の代りに、彼が芝生に腰を下した。そして、彼女の残した目ジルシが何かないかと探してみたが、彼女がそこにいたという形跡を認めることはできなかった。

「アイビキと剣術の決闘をごッちゃに考えたのはマチガイだったか。革命、真剣勝負という自分の一存にこだわりすぎて、心理学の常道を逸脱したウラミがあるかも知れない」と彼ははじめて気がついた。剣術の決闘だから相手を待っているが、恋愛は汽車と同じように人を待たないのかも知れない。

しかし、彼は根気よく三十分ほどジッと待った。それから庭園内をぐるぐる探し廻って元の位置へ戻ってみたが、どこにも水木由子を認めることはできなかった。

しかし、革命はまだ終らない、と彼は根気よく考えた。彼は学校へ戻った。そして、広い校内を彼女の姿を探して歩いた。どこにも彼女の姿は見当らない。その翌日も、またその翌日も、彼女にめぐり会うことはできなかった。彼の革命の意気ごみはにわかに衰えた。