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にぎったて
握った手
「別冊小説新潮 第八巻第六号」1954(昭和29)年4月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,293 字 · 23 页
一夜ごとに半分ずつしぼんだあげく、三日すぎるとマイナスの方に傾いて、彼女にめぐり会うことの怖しさのために学校へ行くことができなくなってしまった。
水木由子の手を握った自分の手がケダモノの手のように考えられる。思いだすと赤面せずにいられない。そして、思いだすことが怖しくて、その怯えだけで冷汗をかいた。水木由子は扉にはさんだ手をひきぬくような真剣さで抵抗した。ついには彼女自身の手を土の中の山の芋のようにゾンザイに扱って、無法に荒々しくひッこぬこうと努力したのである。それが彼女の彼に対する正しい気持であったに相違ない。要するに彼はケダモノにすぎないのだ。アイビキの約束はケダモノの目をそらすために投げられたエサにすぎなかったのであろう。ケダモノが見た革命の幻覚ほど愚かにもアサハカなものはない。
松夫は握り返した綾子の手を考えることもできなくなった。なぜなら、それを考えると、水木由子の手を握った自分の手、ケダモノの手を思いださなければならないからである。
彼は改めて綾子すらも一まわり怖しいものに見直すようになった。彼自身の見ているものが概ねケダモノの甘い幻覚にすぎないのではないかという劣等感に憑かれてしまったからである。