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にぎったて

握った手

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第八巻第六号」1954(昭和29)年4月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,293 字 · 23 页

青空文庫

たった一日の革命以来、急速度に没落してしまったのである。

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試験のとき、松夫はしばしば水木由子と顔を合わせなければならなかった。水木由子は平然としていたが、松夫はいつも急いで目をそらして心の中では宙をふむほどオドオドしなければならなかった。むろん水木由子はロイド眼鏡をかけていたが、その眼鏡が鋼鉄の兵器のようにすさまじい力で彼を圧倒した。彼はそれに怯えた。そして、その眼鏡から聯想しなければならないのは自分のケダモノの手だ。そのために一そう眼鏡に怯えてしまう。鋼鉄の兵器に狙われた一匹のケダモノのように身も心もすくんでしまうのだ。

松夫の最後の試験の日、その試験のあとで偶然水木由子にすれちがった。彼女は一人であった。あたりには人がいなかった。彼が落第しても水木由子は卒業するに相違ないから、これが彼女の見おさめであろう。彼女が一人で、またあたりにも人影がないのを見ると、松夫はこの機会にケダモノの手を拭き消したいということをふと思いついた。ケダモノの手の怯えは彼の堪え難いものだった。生きる限りこの手と共にいなければならないという事実ほど絶望的なものはなかったのである。