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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「うるさいっ」

浅田は呶鳴った。

「貴様みたいな奴を誰が殺すもんか。こゝでは話が出来ない、家へ帰れ」

「誰がこのまゝ家へ帰るもんか。あたしゃこの場で何とか極りをつけて貰うまで一寸だって動きゃしない」

「帰れったら帰らないか」

「いやだよう、支倉の奥さん、何とか鳧をつけとくれ」

静子は蒼白い顔をして、大きく肩で息をしながら、浅間しい夫婦の乱闘を眺めてはら/\していたが、どうする事も出来なかった。

浅田はとう/\お篠の腕を捻上げて、グン/\引立てた。

「奥さん」

部屋を出る時に浅田はグッと静子を睨みつけながら云った。

「どうも失礼いたしました。このお礼はきっとしますぞ」

静子はブル/\顫えて顔を伏せた。

泣き喚くお篠をしっかり小脇に抱えて、玄関に出ると浅田はハッと立竦んだ。

そこには根岸刑事が冷やかな笑を浮べながら、突立っていた。

日外一度取調べられてから、どことなく底気味の悪い刑事だと思っていた根岸が、時も時、ひょっこり眼の前に立っていたのだから、浅田の驚きは大抵でなかった。彼は思わずお篠を抱えた手を放した。

「態見ろ」

お篠は呶鳴り出した。

「警察の旦那がお前に用があると云って来たので、大方こゝに潜り込んでやがるのだろうと思って、旦那を案内して来たんだ。