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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

弟の方は只今中学に参って居ります。妹はまだ小学校です。あれは内気な病身と云った性質だったものですから、それに御覧の通り貧乏ではありますし、学校を中途で引かせまして、幸い世話して呉れる人があって、支倉さんへ行儀見習いと云う事で差出したのでした」

陰気な部屋でそれに電燈も暗かったが、小林氏の話振りには何かこう陰惨な所があって、引入れられるような気がするのを不思議に思っていた石子は、ふと気がつくと、小林氏の黒ずんだ歯並びの悪い歯の中で上の二本の犬歯、俗に云う糸切歯が勝れて長く、それが口を開く度に異様な妖怪じみた印象を与える為だった。

「所が」

小林氏は一向そんな事に気づかないで相変らず異様な犬歯をチラつかせながら、

「全く以て思いもかけぬ事でした。尤も娘は身体は大きい方でしたが、何を云うにも十六と云う年ですし、支倉さんは宣教師と云う教職に居られるのですし、間違いがあるなどとは夢にも思っていませんでした。それが」

小林氏はこゝで鳥渡言葉を切って、云い憎そうにした。

「そんな風の事を鳥渡聞きました」

石子刑事はやはりそうだったのかと思いながら、小林氏に気易く話させるように、態と事もなげに云ったのだった。