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ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页
」
十子は汚れたエプロンをもう胸にかけて、皆にお土産の甘納豆をふるまっていた。
今日は病気。胸くるしくって、立っている事が辛い。
十月×日
夜中一時。折れた鉛筆のように、女達は皆ゴロゴロ眠っている。
雑記帳のはじにこんな手紙をかいてみる。
――静栄さん。
生きのびるまで生きて来たという気持です。
随分長い事合いませんね、神田でお別れしたきりですもの……。
もう、しゃにむに淋しくてならない、広い世の中に可愛がってくれる人がなくなったと思うと泣きたくなります。
いつも一人ぽっちのくせに、他人の優さしい言葉をほしがっています。そして一寸でも優さしくされると、嬉し涙がこぼれます。大きな声で深夜の街を唄でもうたって歩きたい。
夏から秋にかけて、異常体になる私は働きたくっても働けなくって弱っています。故、自然と食う事が困難です。
金が慾しい。
白い御飯にサクサクと歯切れのいゝ沢庵でもそえて食べたら云う事はないのに、貧乏すると赤ん坊のようになる。
明日はとても嬉しいんです、少しばかりの原稿料がはいります、それで私は行けるところまで行ってみたいと思います。
地図ばかり見ているんですが、ほんとに、何の楽しさもない此カフェーの二階で、私を空想家にするのは、梯子段の上の汚れた地図です。