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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

暮れだ、急行列車だ。

あの窓の風があんなに動いている。能率を上げなくてはと、汚れた壁のボールドには、二十人の女工の色塗りの仕上げ高が、毎日毎日数字になって、まるで天気予報みたいに、私達をおびやかすようになった。

規定の三百五十の仕上げが不足の時は、五銭引き、拾銭引きと、日給袋にぴらぴらケープのような伝票が張られて来る。

「厭んなっちゃうね……。」

女工はまるで、サヽラのように腰を浮かせて、御製作だ。

同じ絵描きでも、これは又あまりにコッケイな、ドミエの漫画ではないか。

「まるで人間を芥だと思ってやがる。」

五時の時計が鳴っても、仕事はドンドン運ばれて来るし、日給袋は中々廻りそうもない。

工場主の小さな子供達を連れて、会計の妻君が、四時頃自動車で出掛けて行ったのを、一番小さいお光ちゃんが、便所の窓から見ていて、女工達に報告すると、芝居だって云ったり、活動だって云ったり。正月の着物でも買いに行ったのだろうと言ったり、手を働らかせながら、女工達の間にはまちまちの論議が噴出した。

七時半。

朝から晩まで働いて、六拾銭の労働の代償、土釜を七輪に掛けて、机の上に茶碗と箸を並べると、つくづく人生とはこんなものかと思った。