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くろかべ

文豪怪談傑作選 泉鏡花集 黒壁

泉 鏡花

泉鏡花『文豪怪談傑作選 泉鏡花集 黒壁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:黒壁、霰ふる、遺稿、幼い頃の記憶、菊あわせ、甲乙。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 72,070 字 · 143 页

青空文庫

三

」

「ああ……」

「何時だねえ。」

「先刻二時うったよ。眠くなったの?」

対手は忽ち元気づいた声を出して、

「何、眠いもんか……だけどもねえ、今時分になると寂しいねえ。」

「其処に皆寝ているもの……」

と云った――大きな戸棚、と云っても先祖代々、刻み着けて何時が代にも動かした事のない、……その横の襖一重の納戸の内には、民也の父と祖母とが寝ていた。

母は世を早うしたのである……

「常さんの許よりか寂しくはない。」

「どうして?」

「だって、君の内はお邸だから、広い座敷を二つも三つも通らないと、母さんや何か寝ている部屋へ行けないんだもの。この間、君の許で、徹夜をした時は、僕は、そりゃ、寂しかった……」

「でもね、僕ン許は二階がないから……」

「二階が寂しい?」

と民也は真黒な天井を。……

常さんの目も、斉しく仰いで、冷く光った。

三

「寂しいって、別に何でもないじゃないの。」

と云ったものの、両方で、机をずって、ごそごそと火鉢に噛着いて、ひったりと寄合わす。

炭は黒いが、今しがた継いだばかりで、尉にもならず、火気の立ちぎわ。それよりも、徹夜の温習に、何よりか書入れな夜半の茶漬で忘れられぬ、大福めいた餡餅をったなごりの、餅網が、佗しく破蓮の形で畳に飛んだ。