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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

なんかした事は一度もない、きっと逢えるとばかり思っている。

「あきらめてしまったつもりなんだけど、おいしいスウプをいただいて、直治を思って、たまらなくなった。もっと、直治に、よくしてやればよかった」

直治は高等学校にはいった頃から、いやに文学にこって、ほとんど不良少年みたいな生活をはじめて、どれだけお母さまに御苦労をかけたか、わからないのだ。それだのにお母さまは、スウプを一さじ吸っては直治を思い、あ、とおっしゃる。私はごはんを口に押し込み眼が熱くなった。

「大丈夫よ。直治は、大丈夫よ。直治みたいな悪漢は、なかなか死ぬものじゃないわよ。死ぬひとは、きまって、おとなしくて、綺麗で、やさしいものだわ。直治なんて、棒でたたいたって、死にやしない」

お母さまは笑って、

「それじゃ、かず子さんは早死にのほうかな」

と私をからかう。

「あら、どうして? 私なんか、悪漢のおデコさんですから、八十歳までは大丈夫よ」

「そうなの? そんなら、お母さまは、九十歳までは大丈夫ね」

「ええ」

と言いかけて、少し困った。悪漢は長生きする。綺麗なひとは早く死ぬ。お母さまは、お綺麗だ。けれども、長生きしてもらいたい。