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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

誰にてもあれ、この信長のために身命を捨つる覚悟をもって、洲股に一城を築いて見せる者はないか。成し遂げた者をば、美濃攻めの先登第一の武勲とするであろう」

「…………」

藤吉郎は、一度すすめた膝を、人々の間へまた退いて、それには関知しないような顔をして、真っ直ぐに向いていた。

彼が、心の裡で、

(多分、今に――)

と、臆測していた通りに、やがて柴田勝家が信長の厳命に応じて、

「それ程までに、殿の御決意の固き上は、臣下として、何をとやかく論議いたしましょうや。君命山より重し。われわれ重臣どもとて、徒らに、敵を恐れ、大河に気をのまれて、お諫めした次第ではござりませぬ」

と、いった。

勝家はわざと、藤吉郎の名も口にしなかった。彼から見れば、論議の相手などにするのは、不快でもあり、また藤吉郎を認めることになるからだった。

そしてまた、藤吉郎などへ、君命が下らないうちにとあわてて、佐久間信盛こそ適任であろうと推薦した。信長もそれを容れて、即座に信盛へ三千の兵と、五千の人夫と、多額な軍費を授けて、洲股へ立たせた。

雨期にはいった。

尾濃の山野は、毎日、五月雨の底に浸されていた。