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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
「どうしているだろう? ……洲股へ出向いた組は」
「築城の方は、少しは進んでおるのだろうか」
霽れ間のない雨空を仰いでは、清洲の人々は噂していた。
五千の人夫と、三千の兵をつれて、佐久間信盛が洲股へ立ったのは、ちょうど三月の初旬頃であったから、もう二月余りは過ぎている。
出発の際、
「不肖、大任を受けて、築城に取りかかる以上は、遅くも、夏までには仕遂げて帰る」
と、信盛は傲語して発ったそうだが、その後は一向に捗々しい消息も聞えなかったのである。
すると、尾張の領内でも、庄内川や各地の河川が氾濫して、夥しい水害が案じられていた折も折、
「洲股の御工事は、築きかけた材木も石も職人小屋も、一夜のうちに皆、洪水に押し流されてしまった」
という早打ちが御城内へ着いた由が、早くも一般の耳から耳へと伝えられていた。
案のじょう、その夜から翌日へかけて、惨憺たる敗走者が国境を退いて清洲へ辿り着いて来た。
佐久間信盛以下の将兵や人夫たちであった。
聞けば――
洪水だけの惨害で逃げ帰って来たのではない。美濃の兵は、今日この頃の雨期を待っていたものらしく、洲股一円が、濁流に浸されると、筏軍を組織したり、かねて河を越えさせて、山野に隠しておいた奇兵を呼号したりして、佐久間信盛の陣へ一斉に襲撃して来た。