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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
だが、信長は、そういう輿論に挫けて、思い止まる性質ではなかった。
「勘解由。代って参れ」
三度目の任命は、信長の従兄弟の織田勘解由左衛門に下った。もう一族の者を遣る以外に、適当な人物もなかったからである。
けれどその勘解由左衛門も、任地へ着いて、まだ築城の石や材木もろくに運ばない間に、鳴海附近の激戦で、部下半数と共に、枕をならべて戦死してしまった。
佐久間、柴田、織田勘解由とつづいて、三将共に、築城には失敗するし、敵には惨敗をうけるし、兵の死傷は夥しい数にのぼるし――城内城下の輿論は俄然、
「初めから知れている暴挙だ。それにも懲りず、暴挙を押しなさる」
と、暗にではあるが、責めを主君に帰して、信長の不明を難じる声はようやく昂まって来た。
「桶狭間の僥倖が、かえってお家の害になった。勝って慎むのお考えなく、思い上がっておいでられるのだ」
密かには、そこまで、露骨にささやく家中もあった。
しかし、そうそうは国費もつづくまい。お従兄弟の勘解由様まで戦死されては、いかな無理押しの御気性でも、こんどは悔いを噛まれたにちがいない――。
戦歿者の葬儀なども終って、一片づきすると、秋風がふき始めた。