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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
輿論に耳のないような沈黙を見せて信長は夏の終りを過した。柴田、佐久間など、一時不首尾に悄気ていた面々が、
「どうだ、分ったろう」
と、いわぬばかり、秋と共に、そろそろ大きな顔して、殿中を歩いていた。
その殿中を今、足早に、
「木下氏は。木下氏は?」
詰の間ごとをのぞいて探している近習があった。
「木下は、これにおります」
何処からか出て来て、藤吉郎が、何か君側の用向きを承ると、近習は、
「おはやく」
と、念を押して立ち去った。
藤吉郎は、心のうちで、
(遂に、来たな)
と、独り頷いたことだった。
彼は、ちょっと小部屋にかくれて刀の笄で髪をなでつけた。そしてすぐ信長の前へ出るべく行った。
遂に来たもの――とはいうまでもなく洲股の問題と、彼は直感していた。当然これはいつか自分へ廻って来る! ほとんど信じて疑わなかったものである。
果たして、信長は、彼のすがたを前に見ると、すぐいいつけた。
「藤吉郎。この度はそちに命じる。明日中に、洲股へ発足せい」
「……はッ」
藤吉郎の受ける態を、信長は見つめていた。そして重ねて、
「どうじゃ?」
「身に過ぎた大任ですが、ありがたくおうけいたしまする」