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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

光秀は、池田勝三郎の隊に伍して転戦していたが、彼ももともと、卒伍に交じって、槍先の首ばかりを争っている男ではなかった。

「少々、思い寄りもござれば、数日それがしの一身に、離陣の儀、おゆるしありたい」

と、池田勝三郎に乞うて、暇をもらい、暗夜、ただ一騎で陣地を去り、敵地へ深くはいって行った。

彼は、諸国を武者修行して歩いていた当時から、伊勢の内部が、小党分立で、神戸の北畠家を中心に固まっている内容の脆弱を見ぬいていた。

そこに、彼の乗ずる策があったのである。彼は、何か確としたあてのあるもののように、暗い野を一騎で急いでいた。

「待てッ」

「どこへ行く」

「何者だッ。敵だろう」

忽ち、彼の前後に、刀槍が閃めいた。当然、どこかで出会うであろうと、予測していた敵兵である。光秀は、駒を止め、

「各※(二の字点、1-2-22)は、木股権之介どのの手下か」

と、訊ねた。

「ちがう」

と、敵のひとりが云い放つと、間髪を容れずにまた、

「然らば、持福寺左内どのが組の者か」

と、重ねてきいた。

「ちがう、ちがう!」

敵の兵は、威猛高に、

「怪しげな奴。降りろッ」

と、馬の腹へも槍を向けた。