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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
「はいッ」
「もそっと、前へ来い」
「はい」
「侍になりたいか」
「ええ」
「侍の御奉公は、朝に死に、夕べに死に、始終命がけの御奉公だぞ。出来るか」
「できます」
「そなたの父、加藤弾正どのも侍だった。立派な侍になって、母御を安心させてやれよ」
「…………」
虎之助は、黙って頷いたが、座中の人々の眼がみな自分に注がれているのを気づくと、急に、羞恥んで、もじもじした。
おえつは、泣いていた。欣しさが余って涙がとまらなかった。――藤吉郎は、左右を見まわして、
「誰か。小姓組の堀尾茂助に、市松を連れて来いと申せ」
と、いいつけた。
その間に、
「虎之助へ、菓子をやれ」
と、いった。
寧子が、菓子を与えると、虎之助は、それを見まもっていたが、我慢できなくなったとみえて、手を出してボリボリ喰べ始めた。
母親のおえつは、
「これ、虎之助」
顔を紅らめながら、うしろで不作法を叱りかけたが、寧子や老母が、
「気遣うには及ばぬ。そっとしておいたがよい」
と、いってくれたので、遠くからただ、はらはらと眺めていた。
そこへ堀尾茂助が、自分のうしろに十三、四歳の小姓を伴って、東の縁から座敷へはいり、遥か下に畏まった。