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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

まして人いちばい才はじけた於通ですから、折さえあれば、私のそばを去って、都へ出たがっておりまする。……それを、わるいとは私も申してはいず、ただ、まだほんとの平和の世ともおもえぬほどに、時を待つがよいと、若い心をなだめてはおりますものの、さて、あの賢しさで、いつまでこの退屈な山里に、私と一しょに、水仕事をしたり、読書したり、鳥の声のみ聞いていましょうか……」

尼は、自信なげに、云いむすんで、ふとまた、自分のその年頃を、思いめぐらしているような眉であった。

この尼とて、年のころは、まだ三十七、八でしかあるまい。若いといえば、いたいたしいともいえる若さの禅尼なのである。殊には、精進しているためにか、皮膚にしのびよる初老のかげもなく、人をして、妙齢の頃にはさぞやと思わせるものがある。

「オ。そうでした、友松様。いつぞやは御好意に狎れて、とんだ御無心をし、さぞ御迷惑でございましたろう」

尼は、自分の前に、於通が茶をおいたのをしおに、さりげなく話をかえた。友松も、それと共に、うしろの紙巻の物へ手をのばして、

「そうそう、伺ったのも、そのことでした。あれからです、さっそく画稿にとりかかり、いくたびか描きあらためて、ようやく、下絵が成ったので、ここへ持ってまいりました。