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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
ここを出て、どこへ行くかだ。蔵主はちと云い過ぎた。従者を入れれば五人づれ、旅籠もない山村をうろうろしていたら人の噂のたねになろう。大事の前の小事ということもある。そう考えて彼は急に、
「いや尼どの。お気をわるくされな。蔵主は有名な毒舌家じゃ。それも、肚からいうたわけではおざらぬ。平に」
と、あやまり入って、決して怒りもしていない尼をなだめぬいた。
おかしくてならないように、松琴尼は笑い出した。清左衛門は従者をよび、泊るときめて、馬のつなぎ場を、於通へたずね、自身も旅装など解きはじめる。
「夜中に、追い立てるも無慈悲であろ。よいようにお使いなされ」
細い渡り廊下をこえて、尼はあなたの小部屋へかくれた。武藤の従者たちは、於通に厨房の案内をさせて、それから夜食の炊ぎにかかるという騒ぎだ。行糧は馬の背に持っていて、地酒はのめぬ、都の酒をと、それまで携えているのである。
「いや、負けたな。今夜は、負けたわ」
漸蔵主は舌打ちならした。したたかな酒豪らしく、旅の途次も飲まねば眠れぬたちらしくみえる。真っ赤な顔を振り振り云った。
「なにが負けたといわるるか」
清左衛門が怪しんで問うと、彼は、