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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

正しい人間性というものは、必ず、一箇のものでなければ、人間性として見ることはできない。

人間と人間とが群をなし、万、億と結合したものは、もう人間ではなく、奇態なる地上の群生動物にすぎない。これを人間と観、人間的解釈に拠ろうとするから、わけが分らなくなるのである。

だから庶民はいっている。

(天下を二つに持ち分ければ、どんな理想も栄華もできそうなものじゃないか。何だって、分け目の勝負を賭けてまで、それを独り占めにしたがるのだろう?)

凡下の俗言だが、これは個人の通念的正しさをいっているものだ。時の秀吉にせよ、家康にせよ、それくらいなことは分っているにちがいない。一箇の人間としてはである。しかし、過去、現在を通観してくると、世の中が人間意志だけでうごいて来たとおもうのは人間の錯覚で、実は、人間以外の宇宙の意志といったようなものも多分にある。宇宙意志というのが当たらなければ、人間もまた、太陽、月、星のごとき宇宙循環に約された運命に、どうしても動かされているといってもいい。

いずれにせよ、時の代表者となった者は、もう純粋なる一人間とはよべない。秀吉にしても家康にしてもである。