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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
お受けあれ」
と、秀吉の好意を告げて、広蓋にのせた衣裳を見せた。
玄蕃允は、見ていたが、やがて云った。
「御芳志は寔にありがたい。さりながら、この衣裳の紋から仕立てよう、玄蕃允盛政が晴着としては、気に入り申さず。……お返しおき願いたい」
「ほ。気に入らぬとか」
「銃卒が着る如きものを着て、京中の人目に、あれが柴田の甥かと見らるるは、亡き勝家にたいしても面よごしでござる。つづれたりといえ、まだこの鎧下着の垢じみたままで引廻されたほうがよろしゅうござる。――しかし、筑前どのに、新たな小袖の一つも玄蕃に着せてやらんという御好意がなおあるなれば、もそっと玄蕃が好みの衣裳を下されたい」
「お伝え申そう。……お望みは」
「大紋の紅のものの広袖。裏はもみ紅梅に銀摺の小袖をこそ賜われ」
歯に衣を着せぬ玄蕃允が云い分であった。
なお、彼のいうには。
「すでに、越中の山中にて、百姓ばらに召捕られ、縄打たれて槙島へ送られたことは、世間に隠れもないことでござる。――その間の生き恥もしのび、折もあらば、筑前どののお首をいただかんと心がけたが、それもならず、今日、玄蕃、首の座につくと聞え渡らば――さこそ都の人々の眼も騒がしからんと存ずる。