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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

「あたらよ、気負い者。その愚や、言語道断」

秀吉の痛嘆は、自分への罵りだった。家康に出鼻をくじかれた恥に燃えた。そして、

「今は――」

と、趾を挙げて、十九日、いよいよ大坂を出発せんと、意を決した前夜、またも火のつくような凶報が、紀州方面から入った。

紀州の畠山貞政が、根来、雑賀党などの一揆をかたらい、海陸から大坂へ迫ろうとしている。勢い猛烈、油断ならずとある。

信雄、家康の手がそこへまわっていることはいうまでもない。さなくとも紀泉の各地には、本願寺与類の不平の徒が、淡路、四国の諸豪と呼応して、つねに機会を狙っている。もっと危険なことは、それらの仲間が一般庶民にすがたを変えて、新府大坂城下には、たくさんに住んでいるという事実である。

「おれの世帯は大きい。かろがろと、にわかに立てぬもしかたがない」

秀吉は、発向の日を延ばした。

そしてほぼ二日間に、万事をすました。留守のかため、市街の戦備も、遺漏なく手配した。また前に蜂須賀勢、黒田勢などを助けにやってある各出先へ、指揮、激励を送って、その状況を聞いた。そしてまず一安心と見たか、

「たのむぞ」

と、留守を蜂須賀正勝にまかせ、いよいよ大坂を立ち出でた。