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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

市松は、少女の片手をとらえながら、列の横に立った。

秀吉は、ま近に見て、かれが女性にたいして、物に何かを感じたときに見せる眼もとの表情を、チラとうごかした。

「どうだ、きれいな蝶々だろう」

かれは、ふと、甲冑の身と、甲冑の将士を思って、云いまぎらした。

「……だが、毒の蝶かもしれん。何しても、乙女で、かかる所を、うろつきおるなど、奇怪なことだ。市松、もそッと、馬のそばへつれて来い」

市松は、少女と共に、数歩すすんだ。

鞍のすぐそばまで、近づいた。

けれど、かの女は、ここでも、犬山城の将兵の中をすまして通ったときのように、いささかも、悪びれない、怖れない。世のつねの処女のように、うつ向くこともないのである。

「そもじは、何者だ」

秀吉は馬の上から、わざと、あどけないほど無恐怖でいる白い顔を、じっと見下ろした。

「小野の於通といいます」

於通も、じっと、秀吉を見かえした。

於通は、前の夜、城外の池田部隊のうちで、からくも、一夜を明かした。

部将の千田主水は、部下に、

(親切にしてやれ)

といってくれたが、兵たちにとっては、この好餌を見て、ただ親切だけをつくしてはいられない。