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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
長可は、起きかけた。
満身を、繃帯している。頭も顔も、片腕も、白い布で、巻いているので、さしも鬼といわれた彼も、ままにならない。
それが、鬼武蔵長可には、じれったいのである。
しかも彼は、後月の十八日、功に逸って、小牧山の敵の堅塁へいどみかかり、惨憺たる敗北をうけている。――部下八百余を失ったあげく、かれ自身も、重傷をおい、からくも、味方の戸板にひろわれて、逃げ帰って来たほどなクロ星をとった。自己のみならず、舅の勝入の武名にまで、それは、ただでは拭うことのできない、不名誉を、ぬりつけてしまった。
“鬼武蔵、死せり”
と、敵は、凱歌をあげ、味方のうちでも、信じている者がある。――と聞くにつけ、
(このまま死んでたまるか)
と、長可は、日夜、無念のまなじりをあげ、傷の痛みよりは、心のいたみに、五体を炎にしているのだった。
「だめですよ、兄上は」
仙千代は、兄の気もちに、泣きながら、背を抱きかかえて、怒ってみせた。
「御用がすめば、三左どのを、およびして来ますから、それまで、待って下さいというのに、どうして兄上は、そんなに……」
「筑前どのが、お帰りのあとでは、間にあわんから、急いておるのだ。