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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

三蔵の“夢”というのは。

於通と、都へ行って、暮らすことである。

この、のら息子の母親というのは、小野政秀の旧臣の後家で、於通にとっても、育ての親――乳母のお沢なのである。

於通は、のら息子の三蔵を利用し――三蔵は於通をかどわかすつもりで――この二人が家出したのを、お沢は、あの小野の里のあばら屋で、後で、どんなに悲しんだことだろうか。

とまれ、若い者の夢は、よくも悪くも、いまのような草深い田舎にすみ、戦争にはのべつおびやかされ、貧しい衣食に耐えてはいられないのが、ふつうだった。

けれど、於通の夢と、三蔵の夢とでは、月とすっぽんほどちがう。

同舟異夢の家出だった。

けれど三蔵は、色と慾のふた道を、盲目にあるいた。於通を、かねて約束の場所に待たせ、池田家から褒美の金と、お暇をもらったら、すぐ戻って、予定どおり、かの女と、手に手をとって、京都へ道行きするばかり――と、ひとり有頂天になっていたのだ。

ところが、その虫のよい考えは、この大戦の直前に、まかりならぬとされたのである。

一時は、脱走しようかとおもったが、つかまれば、当然――首。

伊勢路、美濃路、いずこといえど、この大戦場の十里四方、柵門のないところはない。