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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

風呂を出る。体を拭かせる。腹巻、よろい下着、具足などを、すっかり着けおわるまで、於通は、女らしく、かしずいた。

殺伐な陣中のせいか、女武者の白い手は、よけいに美しく見えた。秀吉は、久しぶり、心までほぐれて、柔らかになった五体を、仮屋のうちへ運んだ。

「やあ。もう揃うていたか」

座には、その夕、召しをうけた諸将が、居並んで、待っていた。

浅野長吉、杉原家次、黒田官兵衛、細川忠興、高山右近長房、蒲生氏郷、筒井順慶、羽柴秀長、堀尾茂助吉晴、蜂須賀小六家政、稲葉入道一鉄――など。

それぞれ、一陣の首将である。

「おう、お湯浴みで……」

諸将は、秀吉のてらてらした顔をながめて、まず、大きな安心をもった。

だが、かれに従いて、小姓の端に坐った於通を見ると、具足こそ着けているが、女と、すぐわかった。そして、

(これは少々、閑日月がありすぎる)

とも思うのだった。

「みな、飯はやって来たか」

と、秀吉。

「兵糧をしたためて伺いました」

と、返辞は、一致する。

「つかれたろう。長陣で」

「いや、殿こそ」

「なんの、大坂表にいるほうが、よほど忙しい。野天風呂にはいって、こうしておると、まるで保養じゃよ」