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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

こうも、考えられ、同時に、現在の状況は、まったく、千日手の対局になっているので、なんらかの変化を誘う積極的な一手は、どうしても、今や、打たねばならぬときに来ている。

「そうだ、明朝、勝入がこれへ来るのを待つまでもなく、夜のうちに、黄母衣(使者)の者をやっておこう」

秀吉は、むっくり起きて、寝ずの番へ、料紙と硯をもって来い――と、どなった。

小姓たちが、硯箱をさがしている間に、於通は、秀吉のまえに、料紙をそろえて、

「おことわりなく、お硯を拝借しておりました。おゆるし下さいませ」

と、詫びながら、さし置いた。

「そもじも、まだ寝ずにいたか」

「はい」

「何を書いていた?」

「つたない和歌を」

「そもじ、うたを詠むのか」

「ほんの、古今のまね詠みにすぎませんが」

「長陣の間には、折りに、茶の会、歌の会など、やることもあるが、このたびの合戦では、まず、そんな日はありそうもない。そのうちにそっと、わしだけに見せい」

「でも、お目にかけるほどな歌は……」

於通は、はにかみながら、硯の水をあらためて、側で、墨をすっていた。

小姓たちは、片すみへ寄ったまま、余り愉快でない顔つきを揃えていた。