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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

追跡隊は、右翼、左翼にわかれ、右の千八百人は、大須賀康高が、指揮し、左の千五百五十人は、榊原康政、本多康重、穴山勝千代などが、部将として、急ぎにいそいだ。

田水や小川の仄白さは、夜明け近くも見えるが、四顧は、黒綿のようなもやにつつまれ、空は未明の雲がひくい。

「おっ、あれだっ……」

「伏せい。身を伏せい」

田に、草むらに、木かげに、地の窪に、追跡隊の影のすべてが、ばたばたと、身を折りかがめて、じっと、耳をすましていると、彼方の防風林をつらぬく一すじの道を、まさに、西軍の長蛇が黒々とつづいて行く。

彼方の志向は、ここの志向を気づかない。

ただ、目ざす岡崎を、功名心にえがき、逸りに逸ッているのみだ。

「ひそかに」

「静かに」

あらゆる行動と、意志の集中をも、目顔でしめしあいながら、追跡隊は、左右両翼にわかれて敵の最後尾隊――つまり池田勝入を先鋒とする潜行軍の第四隊――三好秀次のうしろから、ひそかに尾行していたのであった。

これが九日朝の、両軍の“運命のかたち”だった。しかも、秀吉から選ばれて、この大事に総目付として加わっていた秀吉の甥秀次は、夜が明けてもなお、まだ何も気づかずにいたのである。