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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

銃声は、たえまもない。

山と山とに狭められた地形の中の決戦なので、馬のいななきも、槍太刀のひびきも、吠えあい、名のりあう武者声も、木魂にひびいて、天地の鳴るような、無気味さだった。

すでに、この狭間いったいの地は、戦わざる一陣なく、戦わざる一将も一兵もいない。

そして。

勝つと見えれば崩れ、敗れたかと見れば突出し、いずれの旗色がよいのやら、ややしばらくは晦冥の修羅だった。

この中に、ある者は討死し、ある者は勝ち名乗りをあげ、また或る者は、傷を負い、卑怯の名をうけ、勇者のほまれを剋ちとり――そして、よく見れば、人間個々が、永世にかけての、奇異なる運命を作っているのでもあった。

妻、親、子ども、愛人、まだ生れない腹の子までの――一個につながる無数の運命も――かかるあいだに、次へ約束づけられている。

ふしぎな、人間の行為。人間が、穴に相寄り、部落をつくり、社会のかたちを持ってから、ついに、その禍いの大を、またおろかさも、知性にわかりきっていながら、なおやめるにやめられないでいるすさまじい宿業の修羅。

この中に、戦国の武者ばらは、いかに生き、いかによくこの宿業を果たさんや――とあわれにも、生命を奪いあうのであった。