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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

盂蘭盆が来た。

秀吉は、大徳寺の総見院へ、盆詣りした。姫路にある母と妻へ、久しぶり、便りを出した。

(――今、難波に新たなお住居を作らせつつあります。ここの眺望、居心地は、姫路の比ではありませぬ。来年のことを申すと、鬼が笑うそうですが、次の正月は、寧子も共に、そこで春をお迎えするようになりましょう。もちろんあなたの息子も、それまでには大坂へ移ることにし、諸事取り急いでおるところです)

こんな便りだった。

彼は母と妻が、この文に、顔を寄せおうて読む様を、眼にえがきながら、これを書いた。

八月。――涼秋。

彼は、侍臣津田左馬允信勝へむかい、

「浜松へ参って、徳川家へ答礼して来い」

と、特使を命じた。

託すに、不動国行の名刀をもってし、こう伝言した。

「いつぞやは、御家臣石川数正をよこされ、またとない名器を賜わって、筑前は無性によろこんでおります――とな」

不動国行は、その折の、茶入れの礼として、彼から家康への贈り物に持たせたのである。

「ついでに、数正にも会い、その節は、大儀であったと、よろしく申せ」

秀吉の心くばりは、数正にまで届いていた。数正への音物もあった。