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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
――然るに、もし万一のやぶれをここで取ると、お味方にとっては、致命的なものになる。――一刻もはやく、小幡城まで、お立ち退きあるが万全かと思われます」
すると、高木主水清秀は、
「いやいや。勝目がついたときは、大胆に、勝目を取っておくのが勝負というものでござろう。――必定、秀吉はこの大敗を聞いて、怒りをもよおし、手勢をすぐり、軽装のまま、駈けつけて来るにちがいない。それを迎え打って、一挙に、猿面公の首をあげるこそ、兵家の手につばして待つところではござるまいか」
その両論にたいし、家康はここでもまた、同じことばをくり返した。
「勝ちに勝ちを重ねぬものよ」
そして、また、
「部下もみなつかれておる。――今にもここへ筑前(秀吉)が砂塵をあげて来ることは確かだが、きょうは早や筑前と会うべきではない。小幡へ移ろう」
と、即座にきめて、白山林の南をとおり、まだ陽もたかい申の刻(午後四時)ごろ、小牧山のつなぎ城――小幡城のうちへ入った。
つなぎ城とは、繋ギの意味で、出城とも、取出し城ともいったりする。
中心基地の本城から、予想される各戦線の主要地に、足溜りとして、あらかじめ守兵や糧食を入れておく飛び飛びの“点”でもある。