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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
――第一には、宝寺の城中で、信雄卿が殺されたなどという虚説の出所は――決して信雄卿のお供衆からではない。羽柴家の小者の口から出たのが、躁ぎとなった因だとなす一方の云い分と。――いや違う、信雄卿の家臣の疑心暗鬼より出たものじゃと、反駁する宝寺城の人々の云い分とが、双方、声を大になすり合うているうちに、世間の方は、いきさつにかまわず、信雄卿が謀殺されたらしいということだけを、風の如く伝えてしもうたわけなのじゃ」
「世間はやはり、そのようなことを――あり得ぬこととはせず、ありそうなこと也――と、考えているものでしょうか」
「一般の人心は測り難いが、北畠殿に縁故の者どもや侍臣中には、柴田の滅亡につづき、神戸殿の御最期を見た後では――次に来るべきものは何かと……自ら問い自ら悪夢をえがいている者が少なくないことは確かでおざろう」
「さ。そこですが」
と、氏郷は初めて自己の秘懐を解くかの如く、膝をすすめて、云い出した。
「どんな流言が行われようと、羽柴、北畠両家のあいだに、堅い御理解さえ結ばれておれば……ですが、筑前様と信雄卿のお心の間には、多分に、そこに喰いちごうている遺憾があるやに思われます」